ハーレー用オイルポンプの歴史

ギヤ式ポンプが3個ある状態

今回は唐突にオイルポンプについて徒然と書いて行ってみよう。

とはいってもそこはプロアンサーの管理人である。最新?のツインカムやM8の話ではなく、エボ以前のビックツイン、1936年のナックル時代から脈々と使われ続けたギヤ式ポンプに焦点を当てていきたいと思う。

本題に入る前に、ハーレーのビックツインにオイルポンプは2種類あるのはご存知だろうか?
一つは上に書いた1936年ナックルからエボ最終まで使用されたギヤ式ポンプ。

もう一つは2000年(最初期は1999年だったけ?)から登場したツインカムからM8に採用されているトロコイド式オイルポンプである。

両者の違いは名前のまま、どういう方式でオイルを圧送するかが最大の違いになっている。
ここで色々ポンプの違いを説明しても本題から離れていくので、ざっくりわかりやすく説明すると古いギヤ式ポンプはオイルの中で派手にギヤを回しその勢いでオイルを掻き上げる方式、対してトロコイド式ポンプは部屋に入ったオイルを押し出すような仕組みとなっている。

今現在バイクでも車での他のオイル送るような場所でも主流は圧倒的にトロコイド式となっている。トロコイド式は低回転でも安定してオイルを送り出す事ができ、且つオイル粘度に左右されづらいというのが特徴になる。

んじゃギヤ式はどうかって言うと、トロコイド式の逆、つまり低回転ではオイルを送る能力が足りず、且つオイルの粘度に著しくその性能を左右されるとなる。
まぁつまり・・・あんまり良くないってことである。

これから説明するナックルやパンに採用されていた鉄ポンプユーザーであれば、この現象を油圧ゲージなんかつけてものすごく体感しているだろう。つまり冷えているかけたての時は勢い良くゲージを振り切り、温まってくるとガチのマジで心配になるレベルで油圧が上がらない現象はひとえにこのギヤ式オイルポンプの特徴といえるだろう。

ハーレーのオイルポンプ、その基本的特徴

まずはオイルポンプの細かい説明の前にハーレー用ポンプの大事な共通部分、リリーフバルブとオイルの流れの説明をしていく。

この構造は1936年のナックルから登場し、パン、ショベルを経て1999年のエボまで実に63年間貫かれた基本構造であり、ハーレーギヤ式ポンプを知る上で絶対に外せない要素なので模式図をもって説明していく。

大丈夫。管理人の力量なんてこんなもんである。

さて、かなり簡略化したものであるが、これがオイルポンプのリリーフバルブの構造になる。
まず赤い矢印がギヤが押し出して圧のかかったオイルだと思ってほしい。ついでオレンジっぽい四角いのがリリーフバルブ。その次にある紫の斜め線がリリーフバルブスプリング・・・と思え。いや、思ってください…

何はともあれ圧がかかったオイルはこんな感じで、リリーフバルブを押す。押されるとバネが縮んでリリーフバルブが動く。そうすると・・・

こんなふうにまずは腰上に行くオイルラインが開いてそこにオイルが流れる。と、いうより押し出されたきたオイルは基本的に行き場がないので、腰上にはとりあえず強制的にオイルが行くしみ(年式によってちと違いはあるがこれが基本だと思っていただきたい)となっている。
んで、更に油圧が高まっていくと

と、次は腰下に行くのが後になって開き、やっと腰下に行く。
この辺は実に微妙で、オイルがちんちんに温まっている時の鉄ポンプ(すなわちナックルやパンヘッド)ではアイドリング程度の回転だと腰下にはオイルが行かないと思おう。
ただし、腰下には結構豊富にオイルが溜まっているので、当時のハーレーもこれでよしとしていたんだろう。

そしてそこから更に圧が高まると・・・

ついにリリーフバルブが開ききり、リリーフラインを通してオイルはクランクケース、もしくはオイルタンクに戻るリターンラインに(年式によって違う)排出される。

え???せっかくの圧がかかったオイルを捨てるの?もったいねー!

と、夜に飲んでいた缶ビールの中身がちょっとでも入っているのを朝見つけたらそのまま飲んでしまうか、そっと冷蔵庫に入れて料理にでも使おうと思うもったいないおばけ信者の紳士淑女であれば思うだろう。当然管理人もそう思う。

しかし、行き場のないやる気満々のオイルをそのまま放っておくと、どっか余計なところから漏れたり、最悪ギヤのキーをぶっ壊したりするので害しか無い。

更にいえば上に書いたギヤ式ポンプの特性で、このリリーフバルブが開くのはオイルが温まるまでの少ない時間だったりする。特に水飴のごとく硬いシングル50なんかはこいつがないと確実にポンプそのものを破壊してしまうだろう。
管理人のシングルグレード嫌いはこんなところにもあったりする。

ともかくこれが2000年以前のハーレーのオイルポンプにおける基本的なオイルの流れってのをまずは抑えておこう。

ナックルからアーリーショベル途中まで

では次に歴代ポンプ(と言ってもエボのはないよ)を適当な写真で説明していこう。
まずは1936年ナックルから採用され、細かい変更はあったがたしか1967年と実に31年間も採用された通称鉄ポンプを見て言ってみよう。
なお、写真を貼っていくのに便宜上表側、裏側という表現を使う。この表側ってのはエンジンにくっつかない方、見てる側、裏側はエンジンにへばりつく方と勝手に決めておく。

鉄ポンプ表側。文字でちょっと説明があり

まずは表から。これはアーリーショベルについていたもの。
写真にはやじるも何も無いからわからんかもしれんが、最大の特徴はリリーフバルブが横に動く設計になっている事。後はリターンギヤ室が表にあることとなる。
続いて裏側を見ておこう。

裏側である。普段エンジンに密着しているのであんまり見る機会は無いかな?
この年式はリリーフホールがエンジン側へと向かっており、要らなくなったオイルはクランクケース内に排出される。そしてリリーフホール下にミョーーーんと伸びている・・・なんてんだ、溝?は2次チェーンオイラーの通路である。

実は各年式のオイルポンプやS&Sなんかの社外ポンプもそうなんだけど、このプライマリーや2次チェーンオイラーのせいでポンプのオイルラインはかなり複雑化していたりする。
本来のエンジン内にオイルを送るってだけならこの溝はいらなかったりする。

そして、この鉄ポンプの特徴のもう一つはエンジンに入るオイルラインが一つしかないってのがある。

これがま~よろしくなくて、ただでさえオイル圧送量の少ないこのポンプを更にプアーにしている原因の一つでもある。この一つしか無い穴からオイル送るもんだから肝心のアチアチヘッドやリフターなんかに行くオイルを腰下にとられちゃうんだよね。

んじゃ、腰下にオイル足りているかっていうとそうでもなくて、まぁかなりかつかつなオイル量しか送れないものとなっている。

つーことでこの鉄ポンプ、そのルックスからパンヘッドユーザーとしては使いたいところであるだろうが、性能的には全くおすすめできる代物じゃないと言っておこう。

67アーリーショベルから79年ショベルまで

まずは表側。
本当はこのポンプ、67年から72年、73年から79年と区切りがあるんだけど後期のやつの写真がなかったから、まとめて紹介する。ほとんど一緒だしな。ちなみに写真のは67~72年の初期型となる。

あ、写真のリターンラインの矢印がずれててマウントボルトホール指してる…ホントはもうちょい右下の大きい穴の部分です。ごめんなさい。

と、まぁこれもまた表側は説明するところが無いんだけど、鉄ポンプから最終エボまでの基本がここに来て完成している。
まずはリリーフバルブが縦になった。これにより加工工程がちょっと単純化している。加工穴を埋めるのも圧入じゃなくてネジになってるしね。
また、ギヤ室も古いやつとは逆になり、表側が行きのオイルギヤ室へと変わる。
これにより狭い場所の斜め穴が必要がなくなった。

この改良は性能に与える影響は微々たるものなので、製造工程の簡略化が主なねらいだったのかもしらん。他に行きも帰り側もギヤが厚くなり、オイルの送る量が約25%ほど増えた。この量も以降そのままずーっと使い続ける。つまり、オイルを送る量は以降変わらない模様。

んじゃ次は裏側

こんな感じ。ラインの意味がわかっていると、実はあんまり鉄ポンプと変わっていなかったりする。

とまぁ、この頃の変更はポンプボディがアルミに変わったこと、ギヤの厚みをふやしオイルを送る量を大幅に増やしたことが一番大きな変更点となる。
ではショベル最後のポンプをみてみよう。

84年までのショベル最終ポンプ

この年になってギヤ式ポンプは最終形態へと進化。リリーフ周りのラインが多少複雑化し、エボまでの基本形が完成する。また、S&Sなどの社外ポンプも基本はこの形だと思ってもらいたい。

ぱっと見、さっきの写真とあんまり変わらないだろうが、大きな特徴として1973年(多分)からの変更としてリリーブホールが表側にやってきた。
ここから表の蓋を通して直接リターンラインへと繋がりいらないオイルをダイレクトにオイルタンクへと返す方式となった。
ほか特徴としては上の蓋の形状変更が見て取れるだろう。これはリリーフバルブ関係の変更により採用されたもの。前期と後期のこの部分だけ見比べると…

と、形の違いがわかるだろう。

続いて裏側行ってみよー!

ここでも形はあまり変わっていないが、一つリリーフプレッシャーラインなるものが新設されている。

これが何かって言うと、またリリーブバルブの話に戻る事になる。
まずは再びリリーフバルブの構造を見ていただこう。

このオレンジのリリーフバルブが反対側がバネ(紫色の斜線な)もう反対がオイルで双方に押されて動いている。
で、問題はこのバネ側の部分なんだけど、オイルで押されれば当然オイルが入ってくるしそのオイルが抜けなればどんなにオイルが反対から押しても押しきれない問題が出てくる。
これを防ぐためにはバネ側にも圧ってか開放用の穴が必要で、鉄ポンプや初期アルミポンプはこの穴をオイルのリリーフラインに繋げていた。
ところがこれじゃうまくないところがあったんだろう。ショベルも後半になってこの圧抜き穴をリリーフラインから独立させ、クランクケースに開放する構造としたのである。

と、まぁこんな感じでオイルポンプは進化したのであった。

他、オイルポンプあれこれ

他には上でどこに書いていいかわからんかったことを適当に書いておこう。

S&Sのオイルポンプは後期ショベルの基本一緒

どっかにも書いたけど、S&Sのオイルポンプの基本構造とギヤなんかは後期ショベルのまさにそれである。
で、この後期ショベルのポンプに後方互換をもたせナックルやパンにつくようにしたものと解釈していい。

つまり、S&Sポンプを取り付ける際の加工はすべてオイルの行きを腰上、下の2系統にわけリリーフプレッシャーラインをくっつけるだけのためにやる。

こう見るとポンプボディがアルミ化したショベルとかにはつける意味が少なそうだが、加工精度が段違いでなので、これだけでもショベルにつける価値はあるだろう。

穴の位置は恐ろしいほど一緒

少なくとも92年までのオイルポンプは以下の点が完全に共通だったりする。

  • マウント用ネジの位置
  • ギヤの位置
  • 腰上ラインの穴位置
  • エンジンからのオイルのリターンホール

つまり、92年以前のの年式であればつけるだけなら簡単にくっつく。

性能を考えず、多少の加工も厭わないとなればエボに鉄ポンプをつける事も可能。
ただし、性能が全く追いつかないのでやらんけど。

最後に

いかがだったろうか?
オイルポンプってセッティングしたり普段いじったりするもんじゃないから興味ない人も多いかもしらんけど、これが壊れたらエンジンも壊れる超重要な部品である。たまには色々気にしてみてもいいだろう。

で、管理人は今オイルポンプを作っている。

鉄ポンプレプリカ

あんまり見せられるものが無いんだけど、見た目は鉄ポンプ!でも中身はショベル!(まるで人が●にまくる小学生探偵みたいだな) なものを作っている。
そもそもオイル室が逆だったりなんか色々設計が大変なんだが、まぁなんとかなりそうである。

このオイルポンプをつけるメリットは
鉄ポンプの見た目のままでS&Sのポンプと同等の性能が手に入る
って感じになるだろう。

第一弾としてはまずパンヘッド用に、でその次はショベル用をリリースしていく予定。
かなりニッチな品物ではあると思うが、パンのエンジンの見た目はそのままに性能的にものすげーネックになっているオイル能力を上げることができればかなりいいんじゃねーかと思って作っているよ。

まて続報!ツー事で終わり!


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